東福寺日記

カイソウ録 其之九 「松鷹」(広縁)

ウィリアム・モリスは、偉大なデザイナーだ。

 

モリスのデザインに対峙した時、沸き上がる感情は何だ?

 

 

彼のデザインは、古今東西全てのノスタルジーを呼び起こす。

 

 

2003年、真言宗開教師としてアメリカに渡った。

 

任期は三年。

 

僕は若く才気煥発で、目に映るもの全てを記憶に留めようと誓った。

一日の勤めを終えると、沈まぬ太陽に向かって車を走らせた。

 

強烈な西日が、遮るものの何もないフリーウェイの彼方から、まっすぐに僕を照らした。

 

刈り揃えられた芝生が美しい住宅地の一画、塀の上にアザミの花が咲いていた。

 

カリフォルニアブルーの空を背景に、鮮やかに浮かんだ一瞬の色彩は、今も鮮明に心に焼き付いている。

サンタモニカビーチに着く頃は、夕刻だった。

 

夕陽は、どこまでも澄み渡った空と海を真っ赤に、やがて群青色に染めながら、太平洋の彼方に沈んだ。

 

無数に打ち寄せる波間の向こう、日本に残してきた彼女のことを想った。

 

刻一刻と変化する色彩に圧倒されながら、彼女が隣に居ないことを寂しく思った。

海の向こうで見た景色は、僕をまったく変えてしまった。

 

地球が一千回転して、日本に到達した時、僕はもう別人だった。

 

彼女とはヨリを戻せなかった。

 

僕は、一度背を向けた場所には二度と戻れないことを、歯を食いしばって受け入れた。

 

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