1867年、パリ万博。
日本から数々の工芸品がお披露目されると、その超絶技巧にパリっ子たちは目を見張った。
漆器を初めて目にした者は、「この濡れたように美しく輝く器は、何だ!?」と、驚愕した。
東福寺を訪れる外国人を百年ぶりに驚かせたい。
パリ万博の逸話に基づき、「濡れたように輝く漆の床」を作ろうと思い立った。
現代では、カシュ―漆と言われる、素人にも扱える漆の代替品があり、カラーも多彩である。
まずは、フローリングの床をカシュー漆で真っ黒に塗り上げる。
水を打ったような床に、色鮮やかな錦鯉を描く。
色合いや筆使い、漆の厚さなど試行錯誤しながら、水面の透明感と立体感、流動感を表現する。
具材を厚塗りする技法は、ゴッホやマネなど、万博当時、日本画の影響を強く受けた印象派の手法を逆輸入にする。
日本建築には、明確な境界がない。
足し引き自在な建具に間取り、縁側や濡縁、それらは自然や環境と調和して生きる日本人の精神性とも深く関わっている。
「屋内に鯉池を創作する」。
斬新でありながら、日本的美意識そのもの。
完成した漆絵の上に桜灯篭をぶら下げると、濡れたように光る水面に灯りが映り、錦絵的情緒が浮かび上がる。
パリ万博から百有余年、東福寺から再び世界を驚かせてみせる。
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