
戦争は、その男から視力とともに、世界の彩りをも奪ってしまった。
フランクが、一日の大半を過ごすのは、酒と埃の臭いの充満した部屋の隅、陽が差さぬ一角に置かれた、くたびれたソファーである。
昼間から酒を飲み、触れるもの、耳に、鼻に、口に入るもの全てに悪態をつくその姿は、寧ろ憐れで、誰も好んで近づこうとはしない。
部隊仕込みの、威圧的で粗野な言動に、同居する親族は、ほとほと手を焼いている。
親族は、年末のサンクスギビングに、故郷の家族と過ごすため、介護のアルバイトを募集する。
奨学金でバークレー校に通うチャーリーが、実家に帰省する旅費稼ぎのため、アルバイトにやってきた。
チャーリーにフランクを押し付け、旅立つ一家。
一人置いてきぼりをくらったフランクは、チャーリーを伴って、ニューヨークへの旅行を強行する。
軍からの慰霊金で、資金には余裕があるようだ。ファーストクラスに搭乗し、リムジンを駆り立て、一流ホテルに滞在する。
荷物の中に、一丁の拳銃。「最後には、こいつを脳天にぶっ放すのさ」冗談ともつかない告白に、動揺するチャーリー。
チャーリーの心配をよそに、旅の目的を一つ一つ実行していくフランク。
オーダーメイドスーツ、贅沢なディナー、極上の煙草。苦学生のチャーリーには、どれも雲の上の存在で、ただただ当惑するばかり。
生演奏の豪華なランチ会場で、フランクは一際美しい女性の香りを嗅ぎ取った。
スマートに女性をエスコートし、舞台の中央に躍り出る。情熱的で艶めかしいタンゴのリズム、軽妙なステップで彼女をリードする。
アル・パチーノの名演と相まって、観る者の心に刺さる名シーンだ。テーブルから温かな拍手が送られる。
一方、チャーリーは、校長への悪戯を敢行した学友の実名告白を迫られていた。
告白の代償に進学を臭わされ、友を売るか、はたまた退学か。揺れるチャーリーの心。
旅から戻り、チャーリーはどのような決断を下すのか?
観衆にとって、劇中の人物の悲喜は娯楽である。
人生を歩む者にとって、自身の悲劇も、ひいて見れば、人生劇場を盛り上げる娯楽なのかもしれない。
人生が娯楽なら、滑稽でも踏み外してでも、楽しく踊ることが演者に求められる才量ではなかろうか。
男なら、悲劇に酔いたい夜もある。
フランクの暗闇は、先の見えない人生を歩む我々のメタファーでもある。
人生の名優たれ。
暗闇の先が、彩やかな香りに満たされることを願う。
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